日本版「赤と黒」〜「白い巨塔」

ちょっと古い話題で申し訳ないが、大好きなドラマなので。

私は、これ(念のために申し上げておくが唐沢寿明主演)を、放映当時なんと見逃しており、(まだTVドラマのファンでなかった、)DVDで見て夢中になり過ぎ、中1日空けて2日で第一部・第二部を見てしまい、当然の事ながら、ODならぬODVDで心臓が苦しくなり、救急車で運ばれた。はっきり言ってバカである。

ところで、思ったのだが、これの主題はずばり日本版『赤と黒』(スタンダール)だろう。と、言っても、今『赤と黒』を知っている人が、どれだけいるかよく分からないが、要するに野心を持った貧しい青年が、「白衣(=医師)」の世界で、登り詰めて破滅するという話である。

ここで、面白いのは、『赤と黒』の原作では、主人公ジュリアン・ソレルにとってのレナール夫人に当たる存在が、どうやら財前にとっての里見にあるようであることである。・・・つまり、これは男二人の純愛物(!)で、黒木瞳演ずるところの愛人は、むしろ財前にとって唯一の「自分が超えられない侠」なのである。若村麻由美の演ずる財前夫人も、どちらかというと、野心に対するパートナーであって、いわゆる「結晶作用」の相手では決してない。だから、この二人の女性は、財前が教授になった日は、何と二人で飲み明かしたりしている。

最終的に、ジュリアン・ソレルの出世の絶頂で、レナール夫人が彼の過去の行状を暴露したのと同じく、里見の訴えによって財前は職を失い、しかし彼女(彼)との愛を確かめ合った後、断頭台ならぬ解剖室に運ばれる訳だが。

こうして、書いてみると、ある時代までの日本には、男女の間に「恋愛」というものはなかったのかなぁという風にさえ思えて、非常に不思議である。男と男の間に「結晶作用」があり、男と女の間には「友情」しかなかった、奇妙な時代の産物のドラマとも言えるような気が、私はする。