ボクサー

  俺はしがないボクサーだ。少年時代は、ス
トリートファイトで懸賞金をもらって食い繋
いだ。やがて、リングにデビューした俺は、
何度も何度も打ちのめされながら、絶対に倒
れない不屈のチャンピオンになった。
 時は流れる。30になった俺は、いつしか
「テクニシャン」と呼ばれるようになってい
た。そして40歳の時、ついに俺はリングに
倒れた。
 もう、チャンピオンじゃない。ただの、ト
レーナーだ。それでも、俺は名トレーナーと
して名を馳せた。俺は60になっていた。
 最後の試合で、俺は女の弟子を取った。彼
女は善戦の末、負けた。
 俺は初めて、安堵感に包まれて、赤子のよ
うに泣いた。
 「これで、ただの男に戻れるんだ」