昔から、大好きだった唯一の小説で、今も好きなただ一つの小説である。・・・ここには、神、哲学、信仰、女、そして白痴なるものがどういう関係性にあるか全てきちんと述べられている。
この主人公、修道士パフニュスは、全く神に救われない人物として書かれているが、彼がただ一人救った女がいた。それが舞姫タイスである。
今で言ったら、この主人公達は、どういう位置づけて再構成できるのか、実は私にも全く見当がつかない。何故なら、ニーチェの言うように、「神は死んだ」からである。
・・・今、私自身ミーティングなるものに通い続けているが、それでもこの作品は私の中で色褪せることがない。
そもそも、古代のキリスト教において、「人間」とは「男」のことであったとどこかで聞いたことがある。(同じような話を、ビッグブックでもちらりと読んだ。)・・・神の論理なるものと女の論理なるものは、そもそも全く違うと思う。
このパフニュスは、神の論理を一人の男が、勝手に追求したあげく狂ってしまった典型なのだが、一方タイスは、女の論理を体で体現したあげく、ついに神に触れた典型なのである。
それにしても、アナトール・フランスとは頭のいい人だと思う。おそらく、作中の哲学者ニシウスが、彼自身に最も近いのだろうが。
私自身はと言えば、生涯において、パフニュスからタイスへの道を、着実に歩んでいるかなと思う。・・・と、思うのが「傲慢」なるものであるかも知れないが、(笑)最近、真剣に修道院で死にたいと思うようになってきた。冗談ごとではなく、要するに一人で思索する事ほど、神から遠い行動はなく、体を売ることが最も神に近い道で、さらにそれより近しい道は、白痴であることだとこの本は述べているのである。
もう絶版だとは思うが、とても残念なことだ。私が、今持っている豪華装丁版も、実は岩波の赤帯に比べると非常に読みづらい。是非、再版して欲しい本の一冊である。