あおいねこ

あるところに あおいねこが一匹いました

あおいねこは 生まれたときはしろいねこでした

でも しろいねこの飼い主のおとこのこが

うっかり 万年筆のインク瓶を

しろいねこの あたまからしっぽまで ぶちまけてしまったので

しろいねこは 真っ青なねこに なってしまったのです

あおいねこは しろいねこのなかで いつも仲間はずれでした

みんな いいました

「あおいねこなんて 見たこともないよ。へんなの」って

あおいねこは いっしょうけんめい 舌でからだをぺろぺろなめました

でも あおいねこは やっぱり あおいままでした

あおいねこは いつもひとりぼっちで

しろいねこや とらねこや みけねこに さんざんにいじめられていました

あおいねこは ひとりぼっちで おおきくなりました

ある日

あおいねこは くろいねこに出会いました

くろいねこは あおいねこを見て 「ふん」といいました

あおいねこは こわくなって あとじさりしました

すると くろいねこは 聞きました

「きみ どこからきたの?」

あおいねこはいいました 「しろいねこのくに」

「ふぅん。 そんなのあるんだ。ぼくのかぞくは おじいさんも おとうさんも ぼくも 

みんなみんな くろいねこだよ」

あおいねこは だまって話を 聞いていました

「きみ かわってるね」

あおいねこは かなしくなって うつむきました 

くろいねこは それを見ていいました

「ぼく ともだちになってあげるよ」

「ほんと?ほんと?」

「うん。そのかわり ぼくのいうこときくんだよ」

くろいねこは いきなり あおいねこの耳をひっぱりました

「ふーん。やらかいね」

「いたいよお」

くろいねこは言いました「うたすき?」

あおいねこは言いました「ぼく うたってなんだか 知らないんだ」

くろいねこは言いました「ふーん うたも知らないの。

うた うたったことないの?」

あおいねこは言いました「うん」

くろいねこは言いました「うたってあげるよ。 ぼくは うたがうまいんだ」

あおいねこは だまってそこにすわりました

くろいねこは うたいました

「ねむれ ねむれ めぐしわくご

ははぎみに いだかれつ

ここちよき うたごえに

むすばずや うましゆめ」

あおいねこは うっとりしていいました「いいうただね」

くろいねこは いばって言いました「いいうただろう」

あおいねこは かんがえました

(なにか おれいを しなくっちゃ)

「ねぇ」

「うん」

「ぎゅーって 抱きしめて もらったこと あるかい?」

くろいねこは そっぽを 向きました

「ぼくの おかあさんねこは とっくに 死んじゃったんだよ

ぼくを生んで すぐにね」

あおいねこはいいました「ぼく ぎゅって したげるよ」

あおいねこは くろいねこを ぎゅっと抱きしめました

「ぼくをかってた おとこのこは いつも こんなふうにしてくれたんだ」

くろいねこは うっとりしていいました

「あおいねこの あおは しあわせの あおいいろだね」

あおいねこは うまれてはじめて じぶんの毛のいろをほめてもらって

うれしくなって 泣きました

すると 

なみだが からだをつたって あおいねこの毛は どんどんしろくなりました

「きみ ないたこと なかったの?」

「うん はじめて」

「かなしいときは ないてもいいんだよ」

あおいねこは いよいよ おおきなこえを出して なきました

すると からだじゅうの毛が まっしろにもどりました

「ぼく これで しろいねこの国に帰れるよ」

「あおも とっても きれいだったのにね」

もう しろいねこになった あおいねこはいいました

「ぼく じぶんの国に かえっても いいかい」

「もういちど ぎゅーって してくれたらね」

しろいねこは くろいねこを ぎゅーっと だきしめました

くろいねこも しろいねこを ぎゅーっと だきしめました

しばらくして くろいねこは ようやく わらいました「ほっと した」

「ぼく もう帰らなくっちゃ。ほんとうにありがとう」

くろいねこは ふっとわらうと もうくらいまちを やみのなかに消えてゆきました

しろいねこは くろいねこの消えたあとを

いつまでも いつまでも みつめていました