夢を見た。

3歳くらいの時だ。私はバスに乗っている。終点についた途端、停留所のお寺の後ろからゴジラがぬっと顔を出した。ゴジラは火を噴いて暴れている。

私は怖くなって走って逃げた。でも、バスに一緒に乗っていた父は、喘息のせいでゆっくりゆっくりとしか歩けない。・・・私はもどかしく、何度も後ろを振り返りながら、父が追いついてくるのを待って、また走る。父は咳込みながらゆっくりゆっくり一歩一歩歩いている。火はどんどん近づいてくる。

どうにかして、やっと松本の実家に(どうしてそんなに遠くまで走れたのだろう)たどり着いたところで、目が覚めた。

あれから40数年。

父はもう、本当にゆっくりとしか歩めなくなった。普通の足なら5分かかる私のマンションまで20分かけてぜいぜいと息を切らしながら来る。たまに私が、「一緒に歩こう」と言うと、「無理だからタクシーに乗る」という。

多分、衰えた姿を娘に見せたくないのだろう。

父は、帰るときも片手をドアのノブに支えながら、靴べらを使って靴を履く。それから片足を少し引きずりながら一人きりの自分のマンションにと帰ってゆく。