下町古典ラブロマンス〜「しゃべれどもしゃべれども」

この映画で見る落語家・三つ葉国分太一)の出る鈴本演芸場はさびれている。ヒロインの十河も哀しいようなクリーニング屋に勤めている。そんな東京下町の舞台に花開いた、なかなかどうして骨格のしっかりしたラブロマンスである。

この話は、三つ葉が噺を獲得していく話でもある・・・三つ葉は噺が下手だ。当初は少なくとも棒読みに近く、客も当然ほとんどいない。そんな三つ葉がふと知り合ったぶっきら棒で無愛想な美人・十河(香里奈)と生意気で明るいいじめられっ子の村林(森永悠希)そしてやたらと野球解説下手の元選手・湯河原(村重豊)に噺を教えるところから話は始まる。

しゃべれどもしゃべれども」通じない最初四人の心と心。三人に説教する三つ葉は、何度も十河に切り返される。「それであんたは?」湯河原にも「それであんたは?」・・・そして三つ葉は段々自分のアイデンティティに向き合う事となる。

噺とはすなわちユーモア、それが師匠である小三文(伊東四朗)にあって三つ葉にないもの・・・ではユーモアとは?それは人間同士の存在がぶつかり合うきしみ逢いのおかしみ、とでも言うべきものだろうか。

落語家の三つ葉が、真面目すぎるほど真面目にこんな三人に「話し方教室」を開く事自体が、既にユーモラスなのだが。そんな人情の機敏を、この映画はよく捉えている。

”野良猫”のような十河との、ラブシーン抜きの純愛が胸につまる。

原作・佐藤多佳子、監督・平山秀幸