孤独で熱き魂〜「BLACK JACK」

実は、ここのところ、所有していた殆どの漫画を売ってしまおうとして、せっせと段ボール箱に詰めていたのだが、この文庫本だけはどうしても捨てられなかった。もちろん、巨匠手塚治虫の名作である。

何と言うか、この男を上回る男性像と言うのは、まだ日本の漫画史の中で出て来ていないのではないかとすら思えるほどに、超魅力的なキャラクターである。

彼は、当然の事ながら、人間の死なるものを熟知している。また、アウトサイダーの辛さをも・・・こんな簡単な事が、どうして戦後日本では完全に無視されて、「勝ち組」「負け組」なる、非情というより非常識な単語が、出て来たんだろうかなぁと切実に思う。

問題は、金があるかないかではないのだ。人間として、いかに素晴らしく生きているか否かなのだ。どうして、こういった当たり前と言えば当たり前すぎる哲学がなくなってしまって、まだ社会が機能しているんだろうなと、実際とても最近不思議に思えるようになって来た。

まぁ、そういう社会的な背景を全部ちゃらにしても、ブラック・ジャックはやはり魅力的である。彼に釣り合う女というのは、どんな女性なんだろうかとか、彼の青春(多分、相当にあらくれていたに違いない)はどんなものだったんだろうなとか、あれこれ想像する。

まだ彼の過去まで、遡って読んでいないのだが実は、それにしても泣けた。久しぶりに漫画を読んで。ここまで謙虚な男と言うのが普通いるだろうか。

ちなみに、私が好きなのは、いつも彼が連れ歩いている出来損ないのピノコであろうか。彼が愛する、唯一の娘であり、妹でもあり、また多分安らぎでもあるのだろう。・・・女にも、強さ賢さが要求されるようになった現代では、ブラック・ジャックにとって真の安心感は、普通の女性には求められないのかも知れないな、と思った。