自分は変えられない、他人も変えられない〜「大人の問題」

なんか、当たり前のようなことをレビューの題名にしてしまったが、今市子と言う人の基本スタンスはこれだと思う。

人は、基本的に変えられないし、自分と言うものもそうそう変わるものではないのだが、得てして「変えられた」かのように錯覚する瞬間が世の中にはあって、それを「恋愛」と普通人は呼ぶのだが、ここでの「恋愛」は、あくまで題名どおり「大人の問題」・・・つまり、変えられないもの同士が、いかに現実の中で、「折り合い」をつけるか、と言うような事が、主題になっているように思える。

ちょっと話がずれるが、いつのころからか、「カウンセラー」と言う職業が、こんなにも流行りだしたのか、よくは知らない。しかし、お金を取って、その上他人におおっぴらに「変われ」と命令できる、実に不思議で、体のいい商売だなぁと、最近つくづく思うようになった。

現代人は、そこまで「恋愛」に疲れているのだろうか。あるいは、自分で自分の身の始末が出来ないのだろうか。・・・いや、もっと正確に言うと、自分で自分の世話が完璧に出来るのは「神様」だけで、その「神が死んだ」から、やたらと恋愛にしがみついたり、カウンセラーにしがみついたりして、ない筈の答えを探っているのであろうとは想像するが。

で。ここにいる人間達は、あきらかに世間一般の「カウンセリング」などの基準からは脱落した人間であろうと想像する。が、しかし彼らは彼らなりに、何とか、恋人とも家族とも自分とも、折り合いをつけながら生きていこうと努力している。そういうハートフル・コメディである。

主人公・海老悟郎(本来の主人公と言えるのは、狂言回しである直人だが)は、ゲイである。これだけでも、かなり世間の基準から外れているが、更にそのエリートである兄・海老一と、悟郎のパートナーである原嶋祐治の元の妻、由美子との不倫の恋愛(実にややこしい・・・)を軸としてストーリーは展開する。(ちなみに、間に挟まれてあたふたする直人は、祐治・由美子元夫妻の一人息子である。)

こうして書いてみると、まるで「火曜サスペンス」だが、世間が砕けてきた現在、むしろどっちかと言うと、今不振である月9ででも取り上げたらヒットしそうな軽いお洒落なコメディであるところが実に面白い。

内容は、例によって読んで頂くしかないのだが、「自分は変えられない、他人も変えられない、世間も変えられない」その上で、どうマイナー人種が生きて行くか、そしてそれをどう受け入れたらいいのか、と言ったようなテーマを凝縮したような1冊ではある。

「大人の問題」・・・「大人の問題」を抱えた全ての人に、肩の荷が軽くなるように、毎日を笑って過ごせるように、読んで欲しい。