神を知らない悪女〜「嫌われ松子の一生」

・・・一時期、この映画は結構好きでよく見ていたけれど、ある時(具体的に言うと、中島哲也監督が「告白」を撮ったと聞いてから)何だか、真面目に見られなくなった。

この主人公、松子さんのおかしいところは。

一言で言って、(トルコ嬢はまだ、ともかくとして)人、一人殺しておいて、何の反省もない、というところに尽きるような気がする。

もちろん、「要領が悪い」とか、「男性依存」とか、「自己評価が低い」とか、他にも色んな理屈はつけられそうではあるが。要するに、「他人に何をしてよくて、何をしたらわるいのか」或いは、「何をしたら好かれて、何をしたら嫌われるのか」が、さっぱり分かっていない点と言えよう。

だから。彼女は、一見男性に尽くしているかのようで、実は自分が幸せになることしか脳天にない。・・・で、例えば愛人の奥さんに、自分の存在をばらしてしまって、愛人を苦しめたりする。あるいは、やくざの愛人をやって、なんの考えも無く、麻薬取引の手伝いをしてしまい、結局年下のやくざは逮捕劇に遭ったりする。

もちろん、松子さんがそういう「倫理」をわきまえた女性であったなら、ただ単にいいこぶりっこのオールドミスとして、年老いて行った可能性が大きいけれど。。。

松子さんにとって。

父親だけが神であり。・・・それを超えた「神」というものに、ついに彼女は触れない。もっというと、神とは信じるものと言うより、「神の教え」(・・・別に神でなくて、仏でも孔子でもなんでもいいのだが)を、実行すること、つまり「礼儀」とか「倫理」とか「常識」と言ったもの、から松子さんは無縁の女性なのである。・・・知っていて、無視していると言うのとはやや違う。最初から、「分かってない」のである。

そこが、彼女の一番困った点だと私は、最近思う。