桜色のネイル

梅雨の晴れ間の日曜日。中学時代の友人たちは、自転車レースだ、子供と博物館だとフェイスブックではしゃいでいる。ひとりものの私は、することがないので、剥がれたジェルネイルを塗り直しに街に出ることにした。
美容院にしても、ネイルサロンにしても私は「予約」というものが苦手だ。本当は、店の人には迷惑なのかも知れないが、思い立った時に近所の空いた店にさっといってさっとスタイルを片付けてもらうのが好きだ。
ところが、今日はたまたま行きつけの店が予約でいっぱいだった。
あきらめた私は、前に一度だけ行ったことがある、黒と白でデザインされたシックな感じの美容院に足を運んだ。いつかの腕のものすごくよかった、ベリーショートのお姉さんはいなくなっていて、代わりに若いポニーテールの女の子がいた。
「4時から予約がありますので、凝ったデザインは無理ですがなんとかしてみましょう」水色のアイシャドウをつけた彼女は真剣にそういった。ラメグラか、薄いカラーグラデなら速いというので、桜色のグラデーションを頼んだ。
一見、頼りなく見える彼女は仕事が早かった。それに、いつもの店のようないやな爪にキーキーする感じがしない。
薄い桜色を綺麗に塗り終わった後、爪に白っぽい斑点があるのがわかった。「ホログラムを塗りましょう」と、彼女は言う。私は一旦断ったが、見本を見せられたらなるほど可憐な雰囲気なので納得した。春の散りかけた桜のような爪が完成した。
「お値段は」
私は領収書を見てびっくりした。…この前は、新規だったので半額だったのだ。いつもの店の5割増しである。やはり、腕のいいところは値段もそれなりに取るのだ。
これは、しばらく外食もコンサートもお休みだな、と思いながら店を出て、暑い中、ローソンの100円ショップで、半分に切ったキャベツと低脂肪牛乳を買って帰路についた。