詩の朗読会

日曜日に、友人の詩の朗読会があるというので新秋津まで出掛けた。
マンションを出た時点で小雨が降り始めていた。武蔵野線は、比較的空いていて席に座れた。いつもの電車より窓から見える光景には緑が多かった。ごとんごとんと揺られてついた、新秋津駅から歩いて五分くらいのところに、朗読会をするカフェギャラリーがあった。
店内は八十年代の雰囲気そのままで、ビーズ細工のネックレスやインド綿のスカーフ等が置いてあった。黄色い電車が、窓から見える踏切を横切ってゆく風景はまるで荒井由美の歌の中の光景のようだった。
明太子のスパゲッティーとサラダを平らげて、アイスコーヒーを飲んでいると、ようやく友人が打ち合わせを終えて二階のギャラリーから降りてきた。友人の詩人仲間となんとなく話しながらネックレスを物色した。友人は薔薇の花と葉のついたネックレスを、私は黒の羽のついたネックレスをそれぞれ買った。
会が始まったのは二時だった。
若手の人の詩集を次々と友人が読み上げてゆく。…休憩を挟んで、五行詩を観客参加の形で作ることになった。私は色紙に一行、「夜の消しゴム」と書いた。さっきの友人の友人が更に他の人に色紙を回して、一行ずつ皆が連想ゲームのように思い思いに書いたところで、五行詩が完成した。
後半は、ボードレールの詩の朗読だったけれども私はだんだん眠くなってきた。
会が終わると、つまようじを折り紙で綺麗に包んだものをお土産にもらった。私はいくらでも入るお腹に、焼きリンゴとシャーベットの盛り合わせを押し込んで店を出た。
外はすっかり雨だった。さっきの踏切を渡って、新秋津駅までミントグリーンの傘をさして歩いた。田舎っぽい駅前通りには、とんかつと餃子とたいやきの店がたくさんあった。
再び武蔵野線に乗ると、空気が行きより湿っぽかった。川を渡るとすぐにもう駅に着いた。…疲れていたので、駅中で夕食に中華の五目弁当を買うとタクシーに乗った。初老の運転手さんは親切で道をよく知っていた。
ひとつだけ気になっていたことがある。
友人は、暴力をふるう夫から別れてだいぶになる人だった。「彼女の強さを見習いなさい」と言う、詩のサークルのおばあさまの言葉が、耳のどこかにこびりついていた。だから今日の会に出たのだ。
でも、彼女の即興詩はどこか、感受性が鋭いけれども折れそうに線の細いムードが変わっていなかった。…彼女は、思えばその前に同棲した人も、その前の前のボーイフレンドも全部暴力に訴える人だったと言う。おそらく彼女は自分を掌で遊ばせてくれる男性を探しているのかも知れない。
私は、心の中で自分には自分の強さがあるんじゃあないかと心に言い聞かせた。今は、強くなくても一歩一歩、ほんの少しずつ今日も何かを確かに学んでいるのだと。