シャボン玉と映画

TVで人気ドラマだった「ホタルノヒカリ」の映画を見に行ってきた。日曜日で、映画館のフロアーには年配のご夫婦や、若いカップルや女性の二人連れなど、いろんな人がいた。私は、最初我慢していたのだけれども、とうとう美味しそうな匂いに負けて、大きなカップに入ったポップコーンとジンジャーエールを買った。…それほど、周囲を気にして深刻にみる映画でもない、と思ったからだ。

 席に着くと、周りには思った通り女性の客が多かった。甘ったるいポップコーンをつまんでいる内に、予告が終わって本編が始まった。

 映画自体は、なんということはないラブコメディーだった。…藤木直人演ずる完璧主義の「部長」と、綾瀬はるかが演ずる干物女の「蛍」がローマでてんやわんやの末に結婚式を挙げる、というストーリーだった。

 ちなみに干物女とは、仕事仕事で明け暮れて、家に帰ると干物のように寝転がっている女性をさすのだそうだ。

 正直言って、TV版に比べてそんなに面白いわけではなかった。脇役の、松雪泰子の方が主演の二人より印象に残ったほどだった。それでも、なんで見に行ったかと言えば、この二人のカップルが、TV版で見たときどことなく私の父親と母親にかぶって見えたからだった。

 完璧主義の「部長」はけっこうナルシストで、干物女の「蛍」は馬鹿でおせっかいでダメダメだった。だけど、スクリーンの中の二人は(美男美女が演じているせいもあるだろうが)輝いて見えた。

 思えば、家の父親もなんでもきちんとしないと気が済まない人で、母親は仕事は好きだったが、常識も子供の躾もだめだめで、それでいて何かと言うとすぐ泣く人だった。…おせっかいが高じて、実の弟(私の叔父)からも敬遠されていたし、第一母の作る料理は本当にまずかった。

 私は長い間母が大嫌いだった。今でも、連絡は一切取っていないし取る気もない。

 それでも、この映画を見て、ふと若いころの父親と母親は、こんな風に幸せいっぱいだったのかも知れないとも思った。

 バケツのように大きな紙カップに入った、キャラメルポップコーンを平らげるころには、映画もそろそろ終盤に近づいていた。二人が、帰ってきた日本の家の縁側で、妊娠を知るところでラストとなった。「面白かったね」という、女性の声を聞きながら、映画館を後にした。

 帰り道で、ふっと気づいたら、女の子がシャボン玉をふくらませて遊んでいた。わたしはそのシャボン玉が揺れるさまを横目で見ながら、そのシャボン玉にぶつかりそうになりながらマンションのドアを開けた。