ランボーの夜

この間の金曜日の夜、ランボーについての朗読会に行った。

 詩の先生が、版画と一緒に詩をつけた本を出版すると言うので、会の仲間と茅場町に行った。案内に載っていたビルは、たどり着いてみると戦前の古い趣のある建物だった。

 早く着きすぎたせいもあり、トークショウはなかなか始まらなかった。アールデコ調の古いランプの吊る下がった天井や、黄色っぽく変色した壁を見ている内に、会は始まった。

 私は正直ランボーが好きでない。後ろの方の席に座ったので、先生と、写真家の人の話はよく聞きとれなかった。私はランボーの傲岸不遜な肖像画を見ながら、「詩を教えてもらった師匠とのことを、『僕は一匹の豚を愛した』とは何事か」と、そればかりぐるぐる考えていた。

 やっと、朗読の時間は終わって質問の時間になった。ものすごく太った、男の子みたいな女の子が、「なんでランボーはこんなにふてぶてしい顔してるんですか」と質問した。すかっとしたと思ったら、先生は「そうなんです。ランボーって恩知らずで、人に自分の精液を入れたミルクを飲ませたりしたんです」と嬉しそうに言った。

 私は吐きそうになりながら、懇親会に出席した。隣の人に、「先生のお弟子さんですか」と聞かれたのではいと言った。その人は、「先生、田舎にも会持ってるんですね。大変ですねえ」と言った。

 詩を書くのに、東京に住んでないといかんという決まりでもあるのかと思ったが私は黙っていた。

 懇親会は退屈だった。都会に住んでる人が、自分の詩はうまいとか下手とか自分の育ちはいいとか悪いとか自慢したり謙遜したりしてる会話ばっかりだった。なんだか、ふと昔、めちゃくちゃに苛められた、親に無理やり入れられた山の手のお嬢さん高校の雰囲気を思い出した。

 ランボーも、パリで田舎もんとか言われたんでわざと牛乳にいたずらしたんじゃないだろうか?と私は根拠のない空想をした。

 親切だったのは、さっきの太った声の低い女の子だけだった。

 帰りに地下鉄に乗ると、列車の終電ギリギリだった。焦っていると、ふと隣に座った人がげえっと嘔吐した。慌ててよけたけど、自分までかなり気分が悪くなった。

 家に帰りつくとへとへとだった。着てるものを全部脱いで、洗濯機に洗剤と一緒に放り込んで回して、干してから寝た。