BlackSwan

ある男

ある人に、別れとも取れる手紙を出した。・・・返事は来ないけれども、私は彼を信用している。それは何故か。 ・・・彼はおそらく、叩けばいくらでも埃の出る男だっただろう。酒と女に溺れたこともあれば、人を騙すこともあるのだろう。しかし、その分彼には…

甘え上手な男

ここのところ、ずっと悩んでいた。・・・被災地から出てきて現在、就職浪人の彼のことである。 話はやや前後するが、私が40年間、境界例の母親と一緒に暮らして学んだことは、「人は裏切る。人を騙す。人を陥れる面がある」ということだった。 「殺伐とし…

あなたの腕は大きくて細かった抱きしめられて暫くじっとしていた部屋にはイランイランの香りがたち込めていてカーテンは静かな薄緑色だったそれから私は見たあなたの腕が四方八方に伸びてパキラの木のようにどんどん大きくなって部屋中をジャングルのように…

りぼん

私は部屋着の胸元にりぼんをつけた それから長い髪をりぼんで束ねた 引き裂かれたこころを隠すために 詩を綴って精神を蝶結びにした でも夜になると 躰のりぼんがほどけてしまうのだった 心の傷はシフォンのりぼんで隠せない 体の傷は言葉の蝶結びで隠せない…

きみへ

きみは私のマンションのベルを押した 最初、宅配の人かと一瞬思った ドアを開けて、ひさしぶりに見た君は、前より薄茶色いバッグを提げて 「いままでありがとう」と言う 「仕事を探している」とも言う 君のポケットには本当は焦げ茶色に変色した放射線測定カ…

荷車と人力車

父は小さいころ 浦和の街で、よく祖父の引く荷車に乗せてもらったという 荷車で、道行く人を眺めるのが楽しかったという父は、駒込の大きな屋敷で生まれたのだが 祖父がダンスホールの経営に失敗したので 浦和の小さな一軒家に移り住んだ ある時、祖父は銀座…

愛が呼んでいる

友人を誘って、六本木の森美術館に行った。 森美術館は、六本木ヒルズの五十三階にある。私は、生まれて初めてヒルズの蜘蛛のオブジェの下で、友人を待っていた。周囲は噴水があって花が咲いていて、洒落たテナントに囲まれて凄まじい高層ビルが聳え立ってい…

ひとはただしく生きようとすればするほど 何だかどんどんひからびてゆく まるで揺りかごをゆらす母の律動を忘れたかのようにけもののようなふるまいは夜に身を潜め 昼間は仕事をしてきりっと背を伸ばして 休憩時間にラーメンを食べてばかばかしい話をするの…

ランボーの夜

この間の金曜日の夜、ランボーについての朗読会に行った。 詩の先生が、版画と一緒に詩をつけた本を出版すると言うので、会の仲間と茅場町に行った。案内に載っていたビルは、たどり着いてみると戦前の古い趣のある建物だった。 早く着きすぎたせいもあり、…

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の不安について

今日、電車の中の広告を見ていたら、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が既に100万部を突破しているらしい。 もちろん、その中には熱烈な「ハルキスト」もいるだろうし、宣伝につられて買いましたと言う人もいるだろうし、嫌いだけどなんでか…

本当のこと

時々、支援所にいて憂鬱になる瞬間がある。 私のいる支援所にいる大抵の子は、いわゆる引きこもりに近い子たちである。・・・支援所に来て、仕事らしきものができるだけ、本当の引きこもりと言うのとは少し違うのだろうが、それでも皆二〜四時間支援所で作業…

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」について思う事、少々

村上春樹の最新作である。 正直、彼がこれからどこへ向かうのかはよくわからないけれども、自分的に多崎つくるという人物に対して少々思うことは、あまりにも脆弱な気がすると言う事だ。 彼は、一応死んでいる訳ではなく、仕事をして生きている訳だから脆弱…

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を初読して

しかし、これは不吉な作品である。「1Q84」をbook3まで読んだとき、私は何故か三島由紀夫の「豊饒の海」が連想されてならなかった。したがって、もしbook4が発売されるならば、それは聖書的世界に、さらに日本性を強く打ちこんだものになるだ…

五月

彼女は昨日恋人と喧嘩をした それはとても悲しく思えて彼女はお風呂で泣いた それから初夏の化粧をオイルで落とした後 深夜に小説にその経緯をつらつらと書いた 彼女は朝起きる それから白いシャツを洗濯する 匂いのきつい柔軟剤をたくさん入れて それから全…

問題児のプロたち

思い出すと、私が回復途上にいるとき、助けてくれたのは「問題児のプロたち」だった。 こう書くと、「問題児を扱うプロなの?」と誤解されそうだがそうではない。・・・むしろ逆で、本当の援助職のプロと言われている範疇からはみだした、「援助職の中のはみ…

銀河が終わる日

今夜 わたしは 青春が ある意味 おわったような気がしている 憧れとか 夢とか 飴細工とか そういうもので気持ちがいっぱいで 自分が からっぽだったのが 少しずつ 少しずつ 現実で埋まってゆくような…… わたしが好きになった人たちはみんな Mr.childrenだ…

3.11とブログとカネとミネルバの梟と。

最近思うのだが、ブログ界が低調である。・・・特に3.11以来。 要するに、本当の意味で「不透明な時代」が到来しているのだろう。東京大震災は起きるかも知らんし、原発はもう1個くらい爆発するかも知らんし、(あまり考えたくないけど、)富士山も噴火…