きみへ

きみは私のマンションのベルを押した

最初、宅配の人かと一瞬思った

ドアを開けて、

ひさしぶりに見た君は、前より薄茶色いバッグを提げて

「いままでありがとう」と言う

「仕事を探している」とも言う

君のポケットには

本当は

焦げ茶色に変色した放射線測定カードが入っているのを

私は知っていたけれども

いや、礼にはおよばないよ、こっちこそありがとう、

と言ってドアを閉めた。

きみが私に渡した封筒には、

綺麗なステンドグラスの栞が

ただ二枚入っていた。

折角、福島から試験に受かって

東京へ逃げ出してきたんじゃないか

きみが飢え死にしないように祈る

きみがその前にホームレスにならないように祈る

きみがその前に、セシウムで癌に倒れないようにただ祈る

ことしか、今できない。

私も今の彼も、自分の仕事をやり遂げるので精いっぱいなんだよ。

きみは少しがっかりして、

他のだれかのドアを叩くために出て行った。

きみが、この世は究極

孤独の連立方程式で成り立っていることに

一刻も早く気づくことを

そしていつか誰かと、

その愛の解析が解けるようになることを

祈る