父の影〜「赤い袖」

今市子の、たった4Pのフルカラーの短編。で、あるが、この内容は2時間ドラマの内容のような濃密さである。それほどに、作家の手腕が遺憾なく発揮された作品である。

主人公・暁子は、おそらくは地方の旧家で父親と二人暮らしをしている。父親は、画家かあるいは絵が趣味で、娘を画いたと思われる大きな絵が、奥の洋間に飾ってあるというが、それは所謂開かずの間になっている。・・・父親は、手が器用で人形も作るが、ミヨ子という山で行方知らずになったという少女の名をつけたのが祟ったのか、いなくなってしまう。

しばらくして、暁子自身も駆け落ちして家を出る。6年ぶりに戻ってきた時、絵を見ると、彼女をモデルとした二人の少女の静と動の内片方が欠けている。・・・暫く待ったらまた二人になっていた。そういう、怪奇物の要素を含んだ、しかし実にここに要約するのがくたびれる程に、4Pとは思えないドラマであったりする。

ちなみに、収録されているのは、今も発売されている(と思う)「孤島の姫君」という名の、文庫本の巻頭であるので、入手は比較的容易かと思われる。

・・・さて、レビューに移るが、これが結構難しい。駆け落ちに至る心理劇が、全く省略されているせいもあるが。

ここにあるのは、結局「父の影」なのだが、駆け落ちから帰ってきたと言っても、「人さらいはどうした?」「主人のことなら先に宿に・・・」のたった二言の科白が全てを描写している。つまり、ここにあるのは、あくまで父からの自立と、その後の無言の和解なのである。

無理やりに夫と結婚した後、何気なく家に帰って来て、絵を見るとそこに既に予告されている駆け落ち、という構図が何気に面白い。・・・つまり、今市子と言う人は、そこまでに父の影なるものを、ある意味人生の中で、身体で克服しているのだろう。

萩尾望都の、最も正統的な後継者と言われつつ、今市子と言う人が、萩尾望都の世界観を乗り越えているのは、結局萩尾が、どこまで行っても、理想の父のイメージと戯れているかに見えるのと違って、よく「家から性ゆえに出るのではない。性が家から人間を追い出す」(誰の言葉かは忘れました)という、この真理を、今市子は、どの作品でも体現しているかに見えるからだ。

それが、「少年愛」と、「BL」の差である。・・・と、無理やり結論づけた所で、今回のレビューは終いにしようかと思う。