水面の鳥

汚れた母

わたしの母よあなたは 汚れた雪 壊れた観覧車 今日を知らない烏 わたしはあなたがこわいからお嫁に行けない わたしはあなたに封印をした それは警察 それは医者 それはカウンセラー 私が生まれて初めて入れられた棘だらけの揺りかご

赦せ

赦せ 全ての若きものどもを 全ての夜に起こる出来事を 赦せ 自分の中の悪を 走り続けない事を 黙ってただそこにいることを 女であることを ただひたすらに病んでいることを 赦せよ

雪が降っている。 朝からしんしんと降っている。 私は、炬燵の中でご飯とお味噌汁と鮭と、林檎のサラダを食べながら、 雪が舞うのを見ている。 私は自然が好きじゃなかった。 天気の具合にも興味がなかった。 今日、晴れているか曇っているか、雨かと言うこ…

物干しと蝶

ベランダに吊るした洗濯ばさみの沢山ついた物干しが 強風にあおられて ばたばたと空回りをしていた 私は すこしおかしくなって その物干しを 自分のことのように眺めていた 昨日までの私も 何かに吊るされたまま ただ空中で ばたばたと回っていた 私は大人で…

春の化石

悲しい 悲しい そういう時はひたすら泣いているしかない だけど 体にわるいと思って 大根と白菜と南瓜と柚子の味噌汁を食べた後 ベランダに出たら 生暖かい風がごおっと下からうずまくように吹いて来た もうすぐ立春だ 半分死んでいた私は これから ほんとう…

彼は彼女を抱きしめて長いキスをした そんな事が出来るのは彼が詐欺師だからだ ほっとした彼女にさよならと言って彼はドアを開けた それからまた来ると告げた後次の女の待っているホテルへ急いだ 彼は女と喧嘩をした 彼は彼女が懐かしくなった あのずっと脅…

彼女

彼女は昨日恋人と喧嘩をした それはとても悲しく思えて彼女はお風呂で泣いた それから化粧を落とした顔で深夜に小説にその経緯をつらつらと書いた 彼女は生きる 彼女は恋をする やり方は医師やカウンセラーやセラピストや友人が教えてくれる 彼女は歩いてゆ…

あの人

あの人は出て行った 私を抱きしめてキスをしたあと出て行った 可愛いブランド物を着こなしたお嬢さんと一緒に 小さな家を建てて子どもを産んで生活費をしゃかりきに稼いでローンを返す 毎日7時に起きて12時にお弁当を食べて9時にTVを見て笑って夜は週…

居住まい

居住まいを正そう 背筋をきちんと伸ばして 出来ない事は出来ないと言おう 決して無理をせず やれることはとことんやろう 家の中に埃が溜らないように気をつけ 人をむやみに攻撃しないようにしよう 休む時は休んで 眉間に皺を寄せる事なく いつも明るい笑顔で…

わたしのなかに

わたしの気持ちのなかに ちいさなひとりの女の子が生まれた その子はよく笑う よく泣く 人のことを気にかけている 車に乗るのが好きで 甘いクッキーが好きで 自由でとても屈託ない 誰かに受け入れられること 愛されること 愛することを その子は知っている

生きる

人に、大事にされるようになって 私の世界は、少しずつ変わっている 自分を大事にするということ 他人を小馬鹿にしないということ 弱い人、みにくいものを憐れみの心を持ってみるということ 誇りを持つということ 信頼できる人にたよるということ 信用できる…

わたしの幼い頃

わたしの幼い頃 家には本がたくさんあった 居間のつくりつけの本棚の他に 各々の部屋に本棚があり 納戸に本棚があり 階段の踊り場にまで本棚はあふれていた だから 階段は足元に気をつけて昇らねばいけなかった 幼いわたしは ナツメソウセキとか アクタガワ…

就労支援所

疲れ果てた 蒼白い顔、顔、顔、なかなか動かない手足、 休憩ばかりの調理実習、 皆、腰を降ろしてはだるい体を懸命に動かしている 「またさぁ 薬増えたんよ 今度は一日30錠だって」 午前中働くだけで疲れ果てて ビルの裏にこっそり、煙草をふかしに出掛け…

細胞

放射能の降り注ぐこの街で 僕らは 白髪葱のかかったジャージャー麺を食べたり 電車で財布をすられたり 人に裏切られたり タピオカの入った紅茶を飲んだりしながら 生きている 確かに生きている 僕らは 鯖の味噌煮を作ったり 人の書いた小説を読んだり 枝豆の…

死ぬには年を取り過ぎて

お母さんお父さん あなたたちが望むように 階段から転げ落ちて あるいはビルの8階から飛び降りて またはシャンデリアに紐をつって 死ぬには わたしは年を取り過ぎた 階段から転げ落ちて 誰が掃除をするのでしょう ビルから飛び降りて 部屋の資産価値はさが…

わるい遊び

私はおとこと1時に待ち合わせをした 携帯をまさぐっていたら横顔をいきなり覗かれた 私たちは 串カツを並んで食べて肩を寄せ合った 玉葱をたべてイベリコ豚を食べて男根のようなアスパラガスを食べた それからチャイティーを飲んで桜色の爪先をいきなり触れ…

房総の海

詩のサークル仲間で、房総半島へ行った。 冬とも春ともつかぬ海は、寒くて広くて大きかった。 仲間と一緒に、岩を越え越えあてどもなく歩いた。 先生はただ孤独を祝うように佇んでいた。 私は今まで、居る場所なんてなかった。 でも、これからは例えどんなに…

あなた

あなたは、わたしのいがいがの皮を、 そおっとむいてくれた。 それから、甘い蜜でことこと煮込んでくれた。 気がついたら、 わたしはやわらかくしっとりしていた。 わたしはおんなのこで、 あるがままで、猫の仔のように、無知でふにゃふにゃして、 黄金色で…